Antique Print / June.2026

「額縁工房片隅のサイトを見て…」と初めてご連絡いただいたのは成田果樹園の成田さんでした。

今回の額装のご相談は100年程前の欧米の解剖学チャートで、サイズは1000×800程、上下に木製のローラーがついていて開ける度にボロボロと剥落する危険な状況。

そのままでは額装することが難しいので修復をおすすめするとその方向性で進めることになりました。

まるで患者を救急車で運ぶように以前勤めていた西荻窪の数寄和へお届けし、和紙裏打ち・剥落部位補彩をお願いしました。

かなり危ない状態でしたが、3カ月程して修復が完了したと連絡がありました。実物を拝見すると素晴らしい仕上がり。修復家の職人技に感動します。

このような修復は間違えると取り返しがつきません。数寄和に相談して本当によかった。ありがとうございました。

次の額装のステップに向けて少し裏打ち紙の耳を残してもらいました。このようなお願いがスムーズにできるのも数寄和ならでは。

そこから今度は額装の打ち合わせをしました。

初めてこのポスターを見た時、直感で「黒柿」を使ってみたいと思ったので、事前に材を仕入れてお見せしました。

「黒柿」とは「柿の木」に黒い模様が出ているものを指し、とても貴重なもので長い材となると中々出会えません。

幸運なことに、青梅にいたころお世話になっていた材木店で1300程の材が見つかり、一か八か、仕入れたのでした。

柿の木はオイルで仕上げるとどこか骨っぽい表情になります。

そこに黒柿の独特の妖艶な黒味が入ると、スカルに合うんじゃないかと思ったのです。

成田さんも面白がってくれてその方向性で進めることになりました。

割れもねじれもある材で、どんな感じに材が取れるかわからないけどチャレンジすることになりました。

成田さんの家の土間にはいくつかの西洋のアンティーク家具があり、それらは上品で良質な和の建築の中でひっそりと佇んでいました。

〈柿は和箪笥などにも使われる和的な材でもあるので、他の家具とも調和するように額の形は洋的でクラシカルな形のものにできたら。できるだけ材の幅も広く見せたい。〉というニュアンスのご要望があり、改めてデザインを考え始めました。

できるだけ黒が出ているところを活かしたい。節穴があってもそういった表情を肯定的に拾っていく方向性で製材を進めました。

何とかギリギリの感じで製材ができ、今度はルーターの刃の形を検討しました。

色々あーでもないこーでもないと悩んだけれど、クラシカルで繊細ラインの刃を組み合わせてオリジナルな形で削り出すことにしました。

外枠だけだと物足りず、もうちょっと幅を見せたいと思い、アクリル抑えの桟も同材で形を付けて作ることにして落ち着きました。

1200×900程の外寸なので組むのも一苦労。何とか外枠が出来ました。

マットには麻布を貼り込みました。ただ貼り込むと下地の明るい木色が透けてしまうので、一度シナベニヤを黒く塗装しました。

そして想定していた場所に納めると、とても空間に馴染んだ感じに落ち着きました。

柔らかく入ってくる自然光を浴びると、それまで見えていなかった透明感のある杢目の揺らめきに気が付き、とても美しかった。

今回の額装は写真には写せない美しさを秘めたものになったと思います。

材の個性も額の細かい形もどれも効いていて、大変な修復の職人さんの仕事に恥じない額装に仕上げられたかと感じています。

「いいよね。いいよね。」と、二人でしばらく完成した額装と蘇った解剖学チャートを眺めていました。

クセはあるけどしつこくない、丁度いい塩梅に仕上がったかと思います。

サイズが大きいし、デザイン的な面(形だけでなく、どこに黒を持ってくるかなど)でも大変な制作でしたが、個人的にも次のレベルに進んだような額装経験となりました。

そして、自分の好きなものを大切にしている成田さんの感性にとても刺激を受けました。ありがとうございました。